- 2026.10.16
- ニュース
- Newsletter Vol.3~収益力改善支援の概要と「金融支援あり」廃止~
1. はじめに
前号では、中小企業活性化協議会(以下「協議会」といいます。)の全体像をご紹介しました。本号で取り上げる収益力改善支援は、協議会の支援メニューのうち事業の毀損が最も軽い段階の事業者に対する支援です。返済の延滞や債務超過を要件とせず、収益力の低下等が生じるおそれがある段階の中小企業者を対象に、収益力改善アクションプランの策定を支援する予防的な計画策定の支援メニューです。
この収益力改善支援について、2026年3月26日、中小企業庁は「中小企業活性化協議会実施基本要領」等を改正する旨を公表しました1。このうち収益力改善支援実施要領(別冊1)(以下「別冊1」といいます。)の主な改正内容として掲げられているのは、「収益力改善支援(金融支援あり)の廃止」です。適用日は2026年10月1日とされています。これにより、元金返済猶予の要請を伴う類型は平時には用いられなくなり、返済条件の緩和を必要とする案件は、プレ再生支援をはじめとする再生支援で対応することになります。
本号では、収益力改善支援の概要を確認したうえで、今回の改正の内容と背景、金融支援を要する案件の受け皿について解説します。
本号の全文は、このページ下部のPDFに収録しています。印刷してお読みになる場合や、社内で回覧される場合はPDFをご利用ください。
2. 収益力改善支援の概要
収益力改善支援は、2022年3月4日公表の「中小企業活性化パッケージ」の策定に合わせて新設された支援メニューです。協議会が再生計画策定支援を通じて培った金融機関調整能力と、新型コロナウイルス感染症特例リスケジュール支援(以下「特例リスケ」といいます。)を通じて培ったアクションプランの策定支援能力を活かし、有事に移行するおそれのある中小企業者が有事に移行しないよう、収益力の改善を支援することを目的としています2。
対象となるのは、事業環境や社会環境の変化等に十分に対応できない事象が生じる等して、収益力の低下、過剰債務等による財務内容の悪化、資金繰りの悪化等が生じるおそれがある中小企業者です。すでに返済が滞っていることや債務超過に陥っていることは、要件ではありません3。
手続の流れは次のとおりです4。
| 段階 | 内容 |
|---|---|
| 窓口相談(第一次対応) | 今後6か月間の資金繰りの見通しが認められる場合、又は業種・業界の性質に応じ収益力の改善を行うことが有用と判断される場合に、支援が適当と判断される |
| 主要債権者等への意向確認 | 相談企業の承諾を得たうえで、暫定的な資金繰りの見通しを説明し、意向を確認 |
| 支援開始の決定 | 認定支援機関の長と協議のうえ決定し、相談企業に通知 |
| 計画案の作成 | 1年間から3年間の収益力改善アクションプラン及び簡易な収支・資金繰り計画の作成。必要に応じガバナンス体制の整備に向けた助言等 |
| 計画の成立 | 対象債権者の全てが計画案について確認・同意し、その旨を文書又は電磁的方法により確認した時点 |
| モニタリング | 計画遂行期間中、少なくとも1年毎。金融支援の要請を行った場合は少なくとも四半期毎 |
この制度には、従来、元金返済猶予の要請を伴わない類型と伴う類型の二つがありました。実務では前者を「金融支援なし」、後者を「金融支援あり」と呼び分けています。金融支援ありの場合、計画期間は1年間とされ、モニタリングも四半期毎となります。今回の改正は、このうち後者を対象とするものです。
3. 改正の内容 - 金融支援ありの廃止
改正前後の規定を対比すると、次のとおりです。
| 改正前 | 改正後(2026年10月1日適用) | |
|---|---|---|
| 元金返済猶予を要請できる場合 | 中小企業者の資金繰りの状況等から判断し、必要であると判断した場合 | 震災、風水害、落雷、火災その他これらに類する災害等が発生し、中小企業者等に深刻な被害が生じており、中小企業庁が対象地域及び対象期間等を定め、金融支援要請を行うことを認めた場合であって、かつ資金繰りの状況等から必要と判断した場合 |
中小企業庁の公表では「廃止」と表現されていますが、要領の文言上は、災害等が発生し中小企業庁が対象地域及び対象期間等を定めて認めた場合という例外が残されています。つまり、平時には利用できなくなり、災害時に限って利用できる仕組みとして残されたことになります5。
この改正に付随して変更された点が二つあります。第一に、計画期間を1年間とする扱いは金融支援要請を行う場合のものですので、平時の収益力改善計画は1年間から3年間の計画に一本化されます。第二に、四半期毎のモニタリングも同様に金融支援要請を行った場合の扱いですので、平時は少なくとも1年毎のモニタリングとなります。
4. 改正の背景
2026年3月に取りまとめられた「中小企業における事業再生支援のあり方検討会報告書」(以下「報告書」といいます。)は、金融支援ありの収益力改善支援について、コロナ期の特例リスケの受け皿として機能したものの、本来的な位置づけである収益力改善フェーズの支援内容との齟齬が一部で生じていると指摘しています6。特例リスケは、新型コロナの影響で売上が減少した事業者について1年間元金の支払いを止めることを可能とする仕組みでした7。
また、報告書によれば、2019年度から2024年度の間にリスケを繰り返し、支援を複数回利用した事業者のうち89パーセントが最終的な事業再生に至っておらず、2回目から3回目で正常に至る事例は8パーセントにとどまります8。このことから、リスケを通じた問題の先送りが常態化していたとも考えられます。
そこで今回の改正では、収益力改善支援の対象を金融支援を伴わない予防的な支援に絞り、返済猶予が必要な案件は、出口を見据えた再生支援で対応することとしたものと考えられます。
5. 金融支援を要する案件の受け皿 - プレ再生支援とVアップ事業
報告書は、収益力改善支援における金融支援を原則として廃止するとしつつ、金融支援が必要な場合は、事業者(特に小規模事業者等)の個別事情に配慮したうえで、協議会自身のプレ再生支援により幅広く支援を行うことが重要であると指摘しています9。
プレ再生支援は、再生支援の一類型です。直ちに数値基準を満たす再生計画を策定することが困難な場合に、将来の本格的な再生計画の策定を予定しつつ、3事業年度を限度とする暫定的なリスケジュール計画(プレ再生計画)を策定するもので、従前の「協議会版暫定リスケ」にあたります10。プレ再生支援については、次号以降で取り上げます。
また、報告書は、協議会が抜本再生等の高度な金融調整を要する案件に重点的に関与し、収益力改善フェーズの事業者については関与の必要性を見極めたうえでVアップ事業等の活用を進めるべきであるとしています。Vアップ事業は早期経営改善計画策定支援事業の通称で、認定経営革新等支援機関が資金実績・計画表やビジネスモデル俯瞰図といった経営改善計画の策定を支援する制度です11。
このように、今後は、協議会が事業や財務の毀損が大きく、債務減免等の抜本的な金融調整を要する事業者の再生支援に注力し、比較的早い段階の事業者の経営改善は、Vアップ事業等を通じて民間の支援機関が担うという役割分担が進められることになります。
6. まとめ
協議会の2024年度の相談件数は8,761件と過去最高を更新しています12。相談件数が増加する中で、報告書では出口を見据えた支援への見直しが打ち出されており、今回の改正もその一環です。
返済猶予を必要とする局面に至っているのであれば、収益力改善支援ではなくプレ再生支援を含む再生支援の検討に進むことになります。いずれの支援を利用する場合も、まずは協議会への窓口相談又は事前相談から始まります。どの支援が適切か判断に迷われる場合は、当事務所までお早めにご相談ください。
次号(Vol.4)では、再生支援を取り上げ、協議会スキームの手続の流れを解説します。
本号の全文は、下記のPDFをご覧ください。
1 「中小企業活性化協議会実施基本要領」等を改定します(中小企業庁、2026年3月26日公表)
2 中小企業活性化協議会実施基本要領別冊1「収益力改善支援実施要領」1
3 別冊1・2
4 別冊1・3(1)②、3(2)①、3(3)①、5(1)①
5 別冊1・3(1)④イ(2026年3月31日改正、2026年10月1日適用)。改正前は同3(1)④(2023年4月1日改正)
6 中小企業における事業再生支援のあり方検討会報告書(2026年3月)第2章2(3)
7 報告書第2章2(3)脚注6
8 報告書第2章1(3)、第2章2(3)
9 報告書第3章2(4)
10 基本要領別冊2「再生支援実施要領」2(5)⑪、同「再生支援実施要領Q&A」Q32
11 報告書第2章2(3)脚注5
12 報告書第1章2